本物ってこういうことなんだ。頭でむずかしいことを考えるのではなく、一口食べて素直に思える味だった。
こんにちは、フレンチシェフをしているかえると申します。先日、Twitterのマノマノさん(@manomano_farm)が育てるじゃがいもをいただきました。
素晴らしい味と、愛情の詰まった野菜たちを食べて色々と思ったことがあるので、今回は『今』の人と野菜との関わり方、考え方と、これからのことを書いていこうかと思います。
管理者:かえる
料理歴19年目現役フレンチシェフ。浅草フレンチのリエーブルからフランス料理の世界に入り、リゾートホテル、都内、横浜ナチュラルフレンチ、ミシュラン星付きレストラン、銀座ビストロなどで研鑽し、32歳で結婚式場の料理長に。料理、製菓、製パンなどなんでも作ります。各種SNS、ラジオ、YouTubeなどで料理について発信。
mano manoファームの野菜
まずは、今回のじゃがいもを作っている『mano manoファーム』について少し説明していこうかと思います。
信州八ヶ岳山麓にて、“自然対話型農園”という形で無農薬・有機栽培または自然栽培をしている農園です。
いわゆる、野菜本来の力をサポートしながらのびのびと育てていく感じですね。
人も野菜も一緒。やはり成長していく環境というのはとても大切です。
手をかけすぎては味が乗りにくい。かと言って、まったく野放しではうまく成長できないものです。
当たり前のことですが、同じ“生き物”として、どういう風に育てるのか?何を目指しているのか?
食卓に運ばれたとき、そこにどんな価値を創造できるのか?
それらをとことん追求されている方だなぁと感じました。
100%の無農薬野菜は存在しない。有機栽培もピンキリと言われるような時代。
その中でも、野菜と正面から向き合い、野菜づくりの土台である『土づくり』を一からこだわって取り組まれています。
やりがいはありますが、本当に大変なことです。
ぼくの両親も農家ですので、野菜づくりの大変さは小さい頃からずっと見てきました。
食のSDGsと叫ばれていますが、持続可能な農業を目指して取り組む姿には、食の未来を感じされてくれます。
食べたら分かる味。とはこのこと。じゃがいも『こがね丸』の味は特に素晴らしかった…。
キタアカリ。じゃがいもの中でも特に甘みが強くとても人気がある品種。ホクホクした食感と黄色い粉質が特徴で、じゃがバターやコロッケにしたり、フレンチだとポムピューレやヴィシソワーズ(じゃがいもの冷製スープ)にしてもおいしくいただけます。
アンデスレッド。ちょっと珍しい見た目のじゃがいもですよね。赤紫色の皮をむくと、中は黄色。断面を見るとサツマイモのように見えます。香りの良いじゃがいもなので皮付きのままローストや、ポテトフライ、ポテトサラダによく合いそうです。
こがね丸。ぼくのイチオシです。一口でとにかくうまい。ねっとりした食感は、煮崩れしにくいのでカレーなどの煮込み料理や、ドフィノワーズ(じゃがいものグラタン)に向いています。油との相性バツグンなのでポテトフライもいいですね。
おまけの野菜たち。大葉と小ネギもいただきました!感謝です。薬味があると食卓が豊かになりますね。お味噌汁に入れたり、パスタに入れていただきました。
mano manoさんのHPリンクを貼っておきます。野菜の購入もできますよ。
料理人目線から見える、野菜と人の距離
料理人という立場でキッチンに立っていると、食べる方がどういう風に感じているのかがよく見えてきます。
少し料理人目線の話をしていこうかと思います。
基本的にカタチの悪い野菜はお出しできません。
料理によっては問題なく使うことができるのですが、野菜の形を生かして作る料理の場合、色が悪かったり、いびつな形をしていると提供できないこともあります。
味は一緒です。ではなぜ提供できないのか?
結婚式場という特別な場所ということもありますが、形や色が他と違うとけんえんされます。
実際、「なぜこのお皿の野菜だけカタチが良くないの?」とお言葉をいただくこともあります。
スーパーで野菜を選ぶ時、自然と少しでもカタチのいいものを選びますよね。
見た目が『キレイ』でないものは、B品として扱われます。味も栄養分も一緒なのに。です。
そういった野菜は出荷前に振り分けられ、当然値段も下がります。
農家としては、ちゃんとした値段の野菜を売らなければ生活できなくなります。
だから化学肥料や農薬を使って、カタチの良い虫食いのない野菜を作る必要があるんです。
そんな中でも、無農薬・有機栽培にこだわっているのは素晴らしい。
かといって、一定量の品質と数量を確保して作る普通の農家さんたちも必要です。
そうでなければ需要と供給のバランスが崩れて、一瞬で野菜が『高価な食品』に変わるでしょう。
一概にこの農業は良い悪いとは言えないのです。
野菜を取ることの本質から少し離れていくところが寂しくもありますね。
こうした、『カタチだけで選ぶ』状況は、日本人全体にあるものです。
いびつでもおいしい野菜はたくさんあるし、栄養だってしっかり取れるんです。
そう考えると、ばあちゃん家で作っている様な『いびつでおいしい野菜たち』は、人との距離が近いですよね。
裏の畑から、生き生きとした野菜をとってきてすぐに食べる。
カタチは悪いですが、しっかりと生きた味がします。ここにもっと大きな価値を感じてほしい。
一人一人の意識を変えていかなければ、今以上に野菜と人との距離は離れていくのだろうと感じる今日この頃です。
当然、私たち料理人も真正面から向き合わなければいけない問題でしょう。
人と野菜の今と、 これから
さて、あまり暗い話ばかりしていないでこれからのことについて考えていきましょう。
写真は、先日届いた3種のじゃがいもを、シンプルに蒸して食べくらべた時のものです。
シンプルな料理って、本当にそれぞれの個性や味の違いがよく分かるんですよね。
みんな違って、みんな良い。みたいな感じです。
それぞれ、いい意味での個性を出すために、自然栽培であったり、無農薬、有機栽培などが必要になります。
やっぱりおいしい野菜が食べたい。誰だってそう思うでしょう。
それには、『野菜の作り手』『料理人』『食べる人』それぞれの野菜に対する考え方を少しずつシフトしていくことが大切だと思います。
ポイントは二つあって、
まず一つ目は、『一方通行ではなくそれぞれの立ち位置から考えること』です。
農家さんだけがこころざしを持って、一生懸命に野菜づくりをしていても、食べる人のメッセージを受け取る体制ができていなければ何も伝わりません。
だから野菜のカタチだけを見て「これはなんだ」という考えに至るとことがあります。
料理人の立場から考えることも大事で、「いかにおいしく、いかに魅力を引き出し、いかにニーズに答えられるものを提供できるか」。
これができるかできないかで、伝わるものも伝わらなくなってしまいます。
そして二つ目のポイントは『少しずつ』というところ。
大きすぎる変化は、大きなダメージを伴います。
極端に「すぐに自然由来の方法に変えましょう!」と一気に変えてしまうと、たくさんの悲しい思いをする人が絶対に出てきます。
明日からどうやって生活するのかと、路頭に迷う人だっているでしょう。
そういう変化の仕方はスマートじゃないですよね。まあ実際にそんなに急に変えることも難しいでしょうが。
だからこそ『SDGs』の働きがけに、ぼくは意味があると思っています。
“今”の人と野菜の距離感に寄り添った変化なんじゃないかなと。
『作り手』は、おいしさや栄養など、食べる人を想像して、
『食べる人』は、作り手の思いや、野菜が本来どうあるべきかとか、野菜の先にある人を想像する。
そして、『料理人』はそこの架け橋をいかに魅力的に、正しく伝えることができるのか?という様な掛け算的な役割がとても大切だと思う。
お互いに、お互いのことを思えるのってすごく優しい世界になりますよね。
持続可能な世界には、野菜だけではなく、たくさんの課題がありますが、少しずつ寄り添った世界にしていきたいものです。
今回は、マノマノさん家のじゃがいもから感じた『人と野菜の今と、これから』について思ったことを書き綴らせていただきました。
持続可能な農業に未来を感じたので、少しでも伝えられたらと思い、同時に1mmでも前に進めらたという気持ちです。
最後に、蒸したじゃがいもの写真を貼って終わりにしたいと思います(`・ω・´)。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでも食の未来について考えるきっかけとなれば幸いです。
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